茶經

六之飲
七之事
八之出
九之略
十之圖

九之略
九 略式の茶
其造具、若方春禁火之時、于野寺山園叢手而掇、乃蒸、乃舂、乃复以火干之、則、扑、穿等七事皆廢。 

その製造の道具は、春の禁火の時にあたって、野寺や、山の茶園に、人手を集めて茶葉を採み、そして蒸し、そして舂き、そして火にかけて炙って乾きさえすれば、棨、扑、焙、貫、棚、穿、育などの七つ道具は皆いらない。

其煮器、若松間石上可坐、則具列廢。
用槁薪、鼎櫪之屬、則風爐、灰承、炭撾火筴交牀等廢。
若瞰泉臨澗、則水方滌方漉水囊廢。
 その煮る道具は、松の間か、石の上に据えるならば、具列はいらない。
枯れた薪や鼎櫪の類を用いるならば、風炉、灰承、炭撾、火筴、交牀などはいらない。
もし泉に面し、谷川に面するならば、水方、滌方、漉水嚢はいらない。
若五人以下、茶可末而精者、則廢。
若援躋岩、引入洞、于山口灸而末之、或紙包、盒貯、則拂末等廢。
 もし五人以下で、茶を粉末にして精であるものは、羅はいらない。
もし藤蔓に援って岩を登り、縄を引いて洞穴に入るなら、山の入口で炙って粉末にしたのを、あるいは紙に包み、盒に貯えておけば、碾、払末などはいらない。
熟盂鹺簋悉以一筥盛之、則都籃廢。
城邑之中、王公之門、二十四器闕一、則茶廢矣。

あらかじめ瓢、盌、筴 、札、熟盂、鹺簋を、悉くひと筥に盛っておけば、都籃はいらない。
但し、城邑の中、王公の門では、二十四器の一つが欠けても、茶はやめる。


○禁火(キンカ)
周禮』秋官司烜氏に「中春以木鐸修火禁于國中。」(仲春に木鐸を以って火を修め国中に禁ず。)、南朝梁の宗懍の『荊楚歲時記』 に「去冬節一百五日、即有疾風甚雨、謂之寒食。禁火三日、造餳大麥粥」(冬節をさること一百五日、即ち疾風甚雨あり、これを寒食という。火を禁ずること三日、湯と大麦の粥を造る)とあり、冬至から数えて105日目、清明節の前日を寒食(かんしょく)といい、火を三日間禁ずる年中行事。
○叢手(ソウシュ)
叢(ソウ)は、『說文』に「聚也。」 とあり、人手を集めて。
○鼎櫪(テイレキ)
鼎(テイ)は、『說文』に「三足兩耳、和五味之寶器也。昔禹收九牧之金、鑄鼎荆山之下。」(三足両耳、五味を和するの宝器なり。昔禹九牧の金を収め、荆山の下に鼎を鋳る。)、『事物紀原』に「黃帝採首山之銅、鑄鼎於荆山、此鼎之始也。」(黃帝、首山の銅を採り、荆山に鼎を鋳る、此れ鼎の始めなり。)とあり、古代中国の煮炊き用の器の一。多くは三足両耳あり、夏の禹王が九鼎をつくり王位継承の宝器としたという。櫪(レキ)は、『說文』に「椑指也。」、『說文解字注』に「柙指、如今之拶指。」、徐鍇の『説文解字繋傳』に「以木椑十指而縛之。」(木を以って十指を椑し之を縛る。)とあり、古代の刑罰の一種で、手の指の間に木片をはさみ、ひもで引き締めるというもので意味を為さない。別本「〓(金歴)」に作り、〓(金歴)は鼎の属。
○藟(ルイ)
植物名。『說文』に「艸也。」、『詩經』周南に「南有樛木、葛藟纍之。」(南に樛木あり 葛藟之を纍う)、陸璣の『毛詩草木鳥獸蟲魚疏』に「 藟、一名巨瓜、似燕薁、亦延蔓生。 葉艾白色。其子赤、亦可食、 酢而不美。」とあり、蔓性の植物。『博雅』に「藟、藤也。」とあり、藤蔓とする。
○絚(コウ)
正韻』に「緪或省作絚。」とあり、緪(コウ)は『說文』に「大索也。」 とある。
○城邑(ジョウユウ)
城(ジョウ)は、『說文』に「以盛民也。」、『正韻』に「內曰城、外曰郭。」とあり、 邑(ユウ)は、『說文』に「國也。」、『釋名』に「邑、人聚會之稱也。」とあり、城壁にかこまれた町。人家の多い土地。都会。みやこ。まち。
○王公(オウコウ)
王族と諸侯。また、身分の高い人。