いま、目の前にいる人は、本当に本人だろうか。 こんなことは、普通の人はまず考えない、と思う。 CIAやKGB、MI6、モサドなどという言葉が頻繁に出てくる書物に親しんでいる人も、日常生活の中で、いつもこんなことを考えて暮らしているわけではないだろう。 でも、ごく普通の日常生活の中で、こんなことを考えている、ごく普通の人もいるのだ。 人相を見る?不動産屋さんの入口のガラス戸には、物件紹介のチラシがたくさん貼ってあるので、不動産屋さんは不動産を売っているところだと思っている人もいるだろうが、八百屋さんや魚屋さん肉屋さんとちがって、不動産屋さんには買いたいというお客さんだけでなく、売りたいというお客さんもやってくる。 不動産屋さんの手数料というのは、買主でも売主でも、同じ金額をもらえるので、売りたいと言う人は大切なお客さんなのである。 でも、時々どうも怪しいと思う人がいる。長年やっていると、ある種の勘が働くのだ。 勘なんて訳のわからないもので商売するのか、どこが怪しいのかハッキリしろといわれると困るのだが、強いて言えば、人相が悪い。話しがうますぎる。 人相で人を判断するのか、と怒らないでくれ。 かのリンカーンだって
「人相が気に入らぬ」 と人を不採用にし、「大統領ともあろうものが人相で採用を決めるとは何事だ」 と詰め寄られ、「人は四十にもなれば、自分の顔に責任がある」
と言ったというではないか。 もっとも、怪しいと思っても、「あなたは本当の持主ですか」なんていうことは絶対に言わない。そりゃ大切なお客さんだもの。 失礼なことを言って、怒らせるわけにいかない。第一、人相が悪くたって、不動産を持って悪いと言うことはないのだから。 そこで、愛想よく人相の悪いお客さんを送り出してから、ひそかに不動産屋さん変じて探偵屋さんになるのだ。 不動産屋さん変じて探偵屋さんになる?まず、法務局におもむき、不動産の登記簿謄本を入手する。 登記簿の所有者の欄を見て、登記名義人の氏名・住所が売りにきた人と一致するかを、まず確認する。 一致していたら、その氏名と住所で電話番号を調べる。 その電話番号が売りに来た人から聞き出した電話番号と同じだったら、まず問題はすくないだろう。 登記簿の住所が、売りに来た人の住所と違っていたら、固定資産評価証明書や固定資産税課税証明書を取得する。 固定資産税が誰に課税されているかを調べるわけだ。 固定資産税を支払っている人は、一応所有者と推定できる。そこには納税している人の現住所も記載されている。 できれば住民票も入手して、その住所におもむいて、本人に会う機会を作れればいいのだが。 やっぱり人相しかない!?でも、そんなことをしている不動産屋さんは、ほとんどいないだろう。 どうせ、登記の時には住民票や印鑑証明を持ってくるのだから、それらを持ってくるのは本人だろうぐらいしか思っていない。 これが騙しの手口でも書いたように、住民票なんか勝手に変えられるのだ。 最近になって、
「本人が知らない間に、住民票の住所が変わっていた」というのが問題になって、住所変更などの届け出をする際に、窓口に来た人の本人確認をするようになってきたが、持参しろと言っている確認資料なるものは、「運転免許証、パスポート、印鑑登録手帳、各種健康保険被保険者証、各種医療証、敬老手帳、年金手帳(基礎年金番号通知書)、戦傷病者手帳、身体障害者手帳、官公署等が発行した免許証などで写真が貼付されたもの」
なんだと。 でも、お役所では偽造の運転免許証や健康保険証が裏社会で売買されているのを知らないのかしら。 嘘だと思ったら、インターネットで探してごらん。
「偽造運転免許証何枚入荷しました」 なんて、偽造の運転免許証は7万円くらいで売っているぞ。 それを持っていけば、本人になっちゃうんだから。 もっとも、わざわざ住所移転なんて面倒なことしなくても、最近はいろいろ良い機材がたくさんあるので、その筋の人は、住民票だろうと印鑑証明書だろうと、権利証や実印だって、簡単に偽造しちゃうんだ。 もっとすごいのは、印鑑証明書発行機を盗んじゃったというのまであって、大騒ぎしたことがあった。 こうなると、本人を確認しろなんていったって、誰が本人なのか確かめ様がないのだ。 結局は人相を見るより仕様がないと言うことかねえ。 |